県都八策

2019年1月公表


前文

少子化による働き手の不足に直面して、国はついに技能実習という外国人の受け入れを決めた。

成長著しい国々からより優秀な人材が流れ込む時代へ。

30年後の静岡と日本のことを想像してみる。

社会に出た子ども達の技術や知識は、なお世界の先端にあり世界から必要とされているだろうか。

この時代の転換期に私は8本の政策を提言します。


1 拠点を創る


1 地方創生の拠点を創る

 東静岡駅南口のグランシップ駐車場に、県は駿河区谷田の中央図書館を全面移転することを決めました。来年夏前には、民間事業者からの提案の審査を行い、整備を始める予定です。

 現計画では、図書館棟、立体駐車場、そして「文化力の拠点」を担う、高さ60メートルを上限に整備される拠点ビルが予定されています。図書館棟は公費で整備されますが、その他は民間の投資による整備となります。

 まず中央図書館の整備については、220日の本会議で、全国の先進事例を参考に、司書や研究員を抱負に抱え、行政の政策立案を補助していくとともに、ビジネス支援や金融分析も担うシンクタンクとしての機能を提案しました。

 担当の教育委員会からも前向きな回答が出され、電子化された豊富な図書、文献、資料を活かし、知的産業の支援機関を設立したいとの目標が語られました。

 そして「文化力の拠点」には、教育施設の導入を提案しています。

 

 高校卒業時の進学先定員の不足こそが、本県の最大の人口転出要因です。これも本会議で質問し、県内で不足している学問分野(建設・土木など)について、既存の大学など教育機関と早急に協議を進めるよう、申し入れ、検討を促しました。

 そして大谷地区の区画整理です。質問に先立ち、市産業政策課、県新産業集積課とも相談を繰り返し、最終的には、静岡県立大学の食品栄養科学部の教授の方々ともお会いして、「フーズサイエンスヒルズ構想」の拠点をここに開設することを提案しました。

 食品メーカーの誘致、加工技術を有する企業、運搬を担う物流産業群にマーケティングなどのリサーチ企業に加え、今の「フーズサイエンスセンター(財団法人静岡産業育成機構内に設置)」を追手町から拡張誘致するよう提言したのです。

 国の仕事は、金融・経済政策、市の仕事は生活環境と福祉サービスを整えることであり、県は、市の財源拡大を支えるため、産業を創出し、集積するのが役割です。

 

 国と県と市。目標が共有され、その動きが一つになったとき、街は最大の力を発揮し、成長を目指すことができるのです。


2 まちづくりの拠点を創る

 安倍川駅の再整備も、日本平の夢テラスも、そして用宗で始まった民間の温泉施設も、人宿町のテナント開発も、始まりはいつも点です。この点を線で繋ぎ面に広げる。言葉にするのは簡単ですが、この具体的な方法が語られることは少ないものです。

 線とは文字通り道路のことです。この道路には防犯カメラを設置し、電線の地中化を進め、面を創り出すために、統一感あるデザインで明かりを灯す。道路や建築物の形体、コンセプトも統一する。

 こうした取組の一つひとつには、既に行政からの支援がありますが、バラバラに助成するため、いつまでも街の統一感が生まれません。

 私は、これら一連の施策を、まちづくり交付金の対象にまとめあげるべきだと考えています。

 

 先日、お会いした片山さつき地方創生担当大臣にも提案しましたが、私たち自身がまちづくりを楽しむために、是非とも実現したい新制度です。


2 家族を守る


3 家族の豊かさを実現する

 私も二児の父親になりました。大切なのは家族と過ごす時間です。でも仕事が気になれば、携帯片手に居間で手帳を開き、書き残した原稿やSNSがあればPCを開きます。妻に注意されるまで気が付きません。

 競うように子育て支援は充実し、男性にも女性にも、子ども達にも、それぞれに社会的な居場所ができました。でも、家庭は空っぽになってないだろうか。そんな声を聞くことが増えました。

 個の居場所から離れて家庭に帰るとき、若い子育て世代に必要なのは経済の安心です。

 

 日本は、首都東京に若者が集まれば集まるほど人口を減らす国です。地方から始めるしかありません。キャリアアップに繋がる再教育の機会を整え、家族が一緒に過ごす空間を用意する街へ。子育て支援から家族支援へと視点を変えることが必要です。


4 コミュニティの力を引き出す

 利用目的を失った県営住宅や職員住宅などの公共財産を地域で活用し、新たに公園や公民館、集会所を求めている自治会、地域のご要望に応えます。

 そして、あらゆる地域に共通する課題が、コミュニティにおける移動手段です。高齢化で免許証の返納が進む一方、商店街やスーパーマーケットに病院、クリニックなど、日常生活に必要な社会資源が偏在するようになりました。

 

 こうした不便を解消するために、市の交通政策課の施策によって、清水区駒越地区や駿河区丸子地区では、交通弱者対応の買物支援のコミュニティバスが運行されるようになりました。これらの事例を参考に、それぞれの地域に相応しい移動手段について、私も各地域の取り組みを応援したいと思います。


5 地域の防犯力を高める

 駿河区の犯罪発生件数は、県内でもワーストクラスです。管轄の南警察署のエリアが広いことや交番の適正配置に課題があることもその要因かもしれませんが、地域の防犯力を高める取り組みも重要です。

 昨夏は、全国で児童を巻き込む事件が相次ぎました。そして毎週のように届く不審者や痴漢の情報メール。南警察署の機能を高めるためのハード整備を進める一方で、犯罪多発箇所への交番配置を提言します。更に、防犯カメラの効果的な設置方法を周知し、学校の教職員には防犯訓練を徹底。ご父兄やボランティアの方々にも防犯啓発を進めます。


3 富を増やす


6 成長可能な産業を集積する

 前述したように県の仕事は産業の集積です。私も今いくつかの企業誘致に関わっていますが、大切なことは、その産業分野は成長可能なのか、誘致後に地元企業との関係構築が可能か、ということです。

 再生医療を基調とした治験産業の誘致を進め、葵区医療サービスの先進性を高めます。

 清水港への豪華客船の寄港が地域の消費を喚起するには、観光客の移動経路の整備が必要です。また三保地区を中心に海洋スポーツ拠点の整備も提言します。

 大谷地区を舞台に、エネルギーの域内生産と供給を可能とする住環境を整え、防犯や防災の最新技術整備した次世代型の住宅街形成を目指します。

 そして、片山・恩田原の企業誘致ゾーンには、食品関連産業の集積を図ります。食品における産学官の連携の拠点をここに形成します。

 そしてもう一つ、宇宙・航空産業では、静岡大学の人工衛星技術の研究を実用化する方法を模索しています。衛星から送られる画像を解析して、防災や産業生産性の向上、そしてマーケティングにも活かす、新分野への挑戦です。

 長泉町の県立がんセンターを中心に進められたファルマバレープロジェクトは、県が主体となった産業集積事業です。今や医療機器と医薬品の生産額は1兆円を超え、全国一となりました。首都圏から若者の移住を促すスローガンは目立ちますが、彼らに何を用意するのか、肝心なのはその中身です。


7 静岡駅への新幹線停車本数を増やす

 2027年の中央リニア新幹線の開通は、東海道の移動人口を激変させてしまいます。次の10年の経済変化を見据え産業集積に加えて、交通インフラも完備させなくてはなりません。

 東海道新幹線全線のうち静岡駅に停車するのは約6割。一時間に一本というひかりの停車に合わせて仕事のスケジュールを組む不便さは多くの方々が指摘しています。

 行政とJRの関係を、要望から協議への転換するよう知事に提言したのは、昨年9月議会での質問でしたが、以来協議に向けた連絡会が県庁と市町行政との間に設置され、市町個別の各種要望を県で取りまとめ、協議の場に持ち込むことが決まりました。

 静岡市がJRと協議すべき最重要事項は新幹線の利便性向上。今後は各種の市内経済団体とも相談を重ね、実現へ向けた実効的な方法を見つけたいと思います。


4 成長軌道に乗せる


8 新たな農地を整備する

 持続可能な産業として、農業も注目を集めています。県では、沼津市の東海大学跡地を活用して、AOIプロジェクトを進め、省力化やAI技術の導入を研究しています。

 市内では、駿河区東部で農地開発が実行段階に入り、大谷の区画整理でも新たな農地整備が求められています。そして、広野地区をはじめ、点在する所有農地を集約したり、担い手を確保するために、農業への参入促進にも効果的な施策展開が必要です。

 

 食品関連産業の集積が、やがて高付加価値の作物の清算を促進できるよう、農業と他分野との接点ん、連携体制を作ります。


9 ブランド化を応援する

 駿河区にも有名な産物がたくさんあります。生産者の顔が見える販売網を整え、競争力の高い産物は新たな販路を構築してブランド化を図ります。

 今年3月、改修工事が行なわれていた用宗漁港の荷捌き場が完成します。私は数年前から生産物の県内流通を提案してきましたが、漁港の整備に合わせ、今度は用宗へ海産物の集積を図り、観光と出荷、そして直販を狙った大規模水槽を備えて、市場機能の強化を目指します。県内最大の消費地である静岡市中心街へと流通する新たな取り組みを支援します。


10 産業に強い一次産業を目指す

 年々激しさを増す自然災害によって、昨年はついに県内でも台風による一次産業への被害が深刻なものとなりました。国の災害認定を受けて、損傷を受けたビニルハウスなど施設や設備への復旧には、補助制度が適用されました。

 

 復旧のみならず設備の強化を図ることへの助成も用意されたことは歓迎すべきことですが、その手続きには簡素化、迅速化など、改善の余地もあるようです。一次産業でも災害に備えた設備の導入が進よう、支援策の周知改善に努めます。


5 命を守る


11 津波から生命と財産を守る

 静岡海岸では、中島から久能の根古屋まで、延長7.9キロ、高さ8.5Mの防潮堤が建設中です。景観にも配慮し、堤防上には散策やジョギングも可能な自転車道も整備されています。

 現在の工事は中島地区で来年度から西島地区へ。途中、土地買収が必要な箇所や河川との接続工事も必要となるため、全行程の完成にはまだ数年を要します。予算増額に努めます。

 この防潮堤によって、これまで想定されていた東海地震による津波の浸水を防ぎ切り、その後改定された最大津波に対しては、54%の浸水を減少させることができます。もちろん、地震と津波の発生時点では、その規模を確定できませんから、日頃の防災、避難訓練で万全を期していただきたいと思います。


12 豪雨から街を守る

 静岡市を襲った平成1516年の大雨。市内の至るところで道路冠水が起こり、住宅への浸水も多数報告されました。小嶋市長の時代に策定された「浸水対策プラン」も漸く完成の時期を迎えます。河川から雨水路への逆流を防ぐため、接続部分には汲み上げポンプが配備され、川原地区の国道150BP地下には貯水管を整備、現在は広野地区で海へ直接排水する地下放水路の建設工事が進められています。

 そして河川の流量を常に確保することが大切です。昨年会派の政調会長時代に、9月の補正予算で堆積土砂の掘削事業を実現し毎年継続することとしました。

 さて、区内の県管理河川は3本。

 丸子川は、草刈りや土砂掘削は既に定着しており、今後は、堤防の危険樹木や構造物を少しずつ撤去し、遊歩道としての魅力を高めるため、全国一の生産を誇る草花で土手を彩り、沿線にはトイレや休憩用喫茶の整備に挑戦します。

 そして大谷川放水路は、河床の強化工事を順調に進めながら、海岸部のテトラポットの積み直し事業とも連動させ、雨水、高潮対策の予算を安定確保します。

 最後に市管理の浜川。河口部の堆積土砂は長年の課題でしたが、来年度から掘削土砂の海岸への積み上げを改善し、一部を用宗海岸へと運搬、海水浴場の再生に活かすことを決めました。1,000㎥の上質な砂で17,000㎡の用宗海岸に、厚さ6cmの砂浜を実現することができます。併せて浜川では、西脇地区の橋梁部の流量拡大も進めなくてはなりません。


13 土砂崩落に備える

 もっとも困難な災害対策が急傾斜地の問題です。急峻な地形を北部に抱える本県では、山間部の急斜面への擁壁工事を求める箇所が多く、毎年届けられる要望書は数十枚に上ります。

 工事による効果が大きなところを優先しつつも、擁壁工事個所は土地買収が必要などの制約もあり、手続きにも一定以上の時間がかかるのが現状。

 

 一箇所でも前に進めるために、予算の確保に努める一方、専門職の補充や外部委託による業務の迅速化にも努めます。また所有者不明土地は、買収しなくても安全対策が進められるよう、制度改善も並行して国に求めて参ります。


6 高度で温かい教育を実現する


14 生徒と向き合う教育現場を実現する

 教員の多忙化解消が急務の課題です。教員の健康状態ももちろんですが、教員への調査では、児童、生徒と向き合う時間が不充分との回答が続出しており、学力の面だけでなく、学校の問題解決力にも不安が指摘されてきました。

 県では平成30年度から「スクールサポーター」制度を導入し、教員の事務的な補助スタッフを配置し、多忙化解消に取り組んでいます。今後はその増員を図るとともに、いじめや虐待への対応など、法的判断にも対応できるよう弁護士や生徒の変化にも対応できる看護師など、専門職の学校への派遣も提言します。


15 大学をまちづくりの中心におく

 街の活力は若者の力次第です。静岡県には、東京の神田や高田馬場などの学生街がありません。彼らが求めるものは、未来を創るニーズそのものです。私はまず、草薙地区を中心に学生の集積拠点を形成すべきだと思っています。

 

 そして大学の専門性をもっと広く社会に活かす仕組みを創り上げることです。前述したように県立大学の薬事や食品の高い専門性は、社会にとって極めて有益な産業資源です。その開発部門、研究部門を思い切って大学の建物から街の拠点へと移し、社会との連携を常態化する取り組みを始めたいと思います。


16 全ての世代に学ぶ機会を創出する

 社会人になって仕事と向き合って初めて、どの学問が自分に必要だったか痛感することがあります。学び直しを求める声は想像以上に多岐にわたり、そして大きい。

 幼児教育、語学研修、更には趣味の分野においても、知的探求心を満たすのは大きな喜びです。東静岡地区に整備される中央図書館と文化力の拠点には、こうした機会の創出こそ求められています。


7 議会を改革する


17 議員の提言力を引き上げる

 議員が普段どんな仕事をしているか、尋ねられることがあります。それは、議員の仕事が何か、ということが、社会の共通認識に至っていないということでもあるだろうと思うのです。

 私たちの仕事は、条例を策定すること、予算の配分をチェックすること、そして政策を練り上げて実現への道筋をつけることです。

 私は今、切実に専門的なスタッフが欲しいと感じています。調査力、構想力、提言力。そして、専門的な仕事に従事している方々との出会いと協議。議員自身も、セルフマネジメントを心掛ける時代にしなくてはなりません。

 

 


18 信頼される議会を創り上げる

 この数年、地方議員の政務活動費の問題が、全国各地で取り沙汰され今尚係争中の案件もあるようです。政務活動費は、政策調査、議員活動を資金的に保証する大切な資源ですが、もっと政策立案に直結した使い方がなされなくてはなりません。

 私はこれまで、津波からの避難困難地域を明らかにした地図作製や先進事例の調査に役立ててきました。今後は、開かれた議会を目指して、議員の役割について、皆さんへの発信に努めます。


19 公約評価システムを導入する

 初めて市議に当選した20年前からずっと考え続けてきたことです。議員が掲げた公約への評価は、いつも曖昧なまま過ぎていきます。予算を編成する権限を持たない議員が、自ら公約を実現することは困難で、知事や職員に提案したり、時には議員仲間の賛同を必要とします。

 しかし、20年を経て、次第に実現までの道筋を描くことが出来るようにもなりました。私の議員活動には、PDCAサイクルを導入し、セルフマネジメントに厳しく挑戦しようと思います。今後は地域や専門業種の方々に評価を依頼し、かつ政策上のアドバイザーとしての組織を立ち上げていきたいと思います。


8 県市で連携する


20 県の強み、市の強みを尊重する

 県と市それぞれの強さと弱さを自ら認め合うことが必要です。県には広域的な情報量と訓練された政策立案能力が備わっており、かつ財源が大きい。一方市には、生活の現場から事業を立ち上げ、問題を解決していく力があり、かつ地域との関係構築が得意です。

 誰が知事であれ、誰が市長であれ、実務者の定期的な協議の場は、必ず設けられなくてはならず、それは公開の場でなされることが望ましい。

 

 県が行なう全県的な事業展開に伴う政令市への情報伝達については、既に議会で取り上げました。今後はその定着を図り、良好な政策実現の場となるよう、県市間の政策の違いについて、常に敏感であることを心掛けていきます。


21 県市間の政策協議のあり方を見直す

 静岡県と静岡市との間には、他の政令市とは異なる関係構築が必要だと感じます。静岡市は、決して恵まれた政令市とは言えません。全国一広い面積で山間地から河川、海岸までを有し、にも関わらず人口と予算額は最少です。最大の横浜市とは予算額にして5倍以上の差があります。

 同じ制度下で、これほど格差の大きい制度はないだろうと思います。

 静岡市は、もっと県の様々な事業の立案や推進に敏感であって欲しいと感じますし、その積極的な導入に努めて、県との協力関係を前向きに築いて欲しいと思います。、そして静岡県には、適切な時期に市との情報共有を行いつつ、市の進める事業への協力参加を常に意識して欲しいと思うのです。

 そのためには、更に職員相互の人材交流を盛んにしながら、実務者の協議を定着させていくことが何よりも重要です。